保証によって融資をバランスシートから外す金融技術の原型ができ上がった。
米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、米連邦住宅抵当公社(フアニーメイ)もパススルー型の債券を出し始めた。
フレディマック、ファニーメイは政府機関ではないが、米住宅監督局(OFHEO)が監督している。
市場関係者は、政府系の両公社が保証する債券には、政府の「暗黙の保証」が付いていると見ていた。
ただ債券の目論見書には政府保証のないことが明記され、B政権のS財務長官は政府は両公社の債券の保証はしていないと言明していた。
次のステップとして、ベイスルー型の債券が開発された。
パススルー型と同様に住宅ローンのプールを担保に債券を発行するが、そのプールを発行者のバランスシートに計上する。
発行者の保有する資産を小口化するイメージで、その住宅ローンのプールである資産から発生する元利払い金を債券の元利支払いに充当する仕組みだ。
剖年にジニーメイが発行したのがベイスルー型の第1号とされる。
ペイスルー型のRMBSは、モーゲージ証券担保債務証書(CMO) へと進化する。
フレディマックが導入したもので、住宅ローンのプールを担保に、そこから条件の違う複数の債券を作りだした。
プールされた担保のうち超優良部分を担保にトリプルAの債券を、その次に優良な部分を担保にダブルAの債券を、さらにその下の部分を担保にシングルAの債券を、それぞれ切り出していった。
担保をパッケージにしてそこから信用力の異なる資産を切り出すCMOは、信用を人為的にコントロールする金融の新しいあり方を切り開いた。
米国政府や政府系金融機関によって開発された住宅ローン証券化の手法は、民間金融機関によって取り入れられていく。
パンク・オプ・アメリカがパススルー型のRMBSを手がけたのが最初で、その後、民間金融機関がペイスルー型やCMOにも参入した。
民間の参入によって、証券化の対象資産は拡大する。
出年にはシテイコープが、売掛債権を担保にした資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)をアレンジした。
S・Bが、自動車ローン担保証券(CARS)を担保にした証券を販売した。
前年にはR・P・O・Dが、クレジットカード・ローンを担保にした資産担保証券(ABS)を手がけた。
米銀が扱っていた有力な融資資産が、次々と証券化の担保に組み込まれていった。
38パーゼルIの議論が始まるのは、銀行融資が証券化される技術が次々に確立されたころだ。
証券化の技術開発を目の当たりにした米銀の経営者は、証券化をパーゼルI対策の柱に位置付けていく。
サブプライムローン問題で損失を出したRMBSは、金融技術的には証券化の集大成だった。
担保資産を信用力の低い個人向け住宅融資に広げた。
そのうえでCMOで手がけてきたように、同じローンプールからいくつもの格付けの債券を切り出している。
さらに、パススルー型から実施されているオフバランスで取引できる仕組みに組み上げた。
2008年末で見ると、米国の住宅関連の証券化商品の残高は8兆9000億ドル。
資産担保証券の証券化商品の残高は2兆6700億ドルにものぼっている。
こうして証券化は金融の主役になっていった。
証券化には大きな利点があった。
融資など銀行を介する間接金融と、株式発行など市場から直接資金を調達する直接金融の中間に位置し、両方の利点を備えていた。
利点のひとつはリスクの分散である。
企業に資金を貸し出す伝統的な銀行業務では、貸出先企業の倒産リスクは銀行が負う。
パーゼルIは、銀行にそのリスクに見合った自己資本を積むよう求めた。
証券化すれば、企業向け融資を担保にした有価証券を幅広く投資家に持ってもらうため、銀行のように時価評価や自己資本比率規制がかからない。
また長期的な視野で投資できる個人投資家のマネーを集められる。
銀行にリスクは残らず、自己資本の負担増も回避できる。
2つ目は担保になる融資の分散である。
通常の融資では、企業向けはその経営が傾くと一気に不良化する。
特に大口融資の不良化は、銀行の致命傷になりかねない。
これに対して証券化は小口のローンを集めたもの(プール)を担保にするので、破綻リスクは分散される。
例えば住宅ローンを200本集めたものを担保にするとする。
1本の返済が滞っても、ほかの199本の返済が続いていれば、利回りは若干落ちるが、全体の担保の質に大きな変化は起きない。
数十本の住宅ローンが同時に焦げ付く確率は低く、全体としての不良化リスクは低いとされた。
3つ目は対象の拡大だ。
分散によってリスク低減が図れるので、従来は融資できなかったり担保にできなかったりした資産を担保に、資金を貸せるようになった。
サブプライムローンを担保にできるようになったのは、分散によるリスク低減効果があったからにほかならない。
証券化は、マネー版打ち出の小槌として機能した。
4つ目は専門分化だ。
伝統的な商業銀行業務では、銀行が貸出先企業の信用状況を審査して、融資するまでの工程を自ら手がけた。
これに対して証券化では、小口の融資は融資専門の業者が担当し、その融資を買い集めてプールを作るのは銀行や投資銀行が手がけ、審査にあたる作業は格付け会社にまかせ、融資を担保にした有価証券の販売は銀行や証券会社にまかせた。
それぞれの専門業者が高度なノウハウを持っていれば、金融の流れは効率的になる。
5つ目は銀行の経営効率の向上だ。
商業銀行は融資の際に審査をしていたが、証券化ではその作業を格付け会社にまかせた。
これは審査のアウトソーシングである。
銀行にとって収益を生まない審査部門はコストセンターで、それを切り出すことで身軽になり、ほかの収益業務に力を入れられると考えた。
6つ目は金融システム全体としての銀行への負担軽減だ。
例えば日本の不良債権問題では、伝統的な商業銀行業務が中心だったため企業の破綻リスクをすべて銀行がかぶり、金融システムが混乱した。
証券化では資金の出し手は銀行ではなく、幅広い投資家が担う。
破綻リスクを投資家が細かく分散して持つため、システムが揺らぐ危険性は小さくなる面もあった。
こうした利点を持つ証券化は、次の時代を担う金融技術革新の柱と考えられた。
証券化がマネーを吸い寄せて拡大し、米国の金融経済のフロー、になる。
サブプライムローン問題は、次世代金融技術の星と見られていた証券化を奈落の底に叩き落した。
その欠陥が投資家の眼前にさらされ、マネーを循環させる金融技術としての信頼を失った。
一番大きかったのは、小口融資のプールを担保に証券化商品を作ることの危うさが明らかになったことだ。
これまで銀行が融資を手がけていたときは、それが不良化すると自らの資産が痛むため、貸し出しには万全を期そうとした。
ところが証券化では、小口融資を委ねられた専門業者は、融資を銀行や投資銀行に売ってしまえばリスクを負うことはない。
融資をすればするほど、融資実行と販売に伴う手数料が稼げた。
このため返済能力が低いと見られる個人にも融資をしつづけて、2004年以降、サブプライムローンが爆発的に伸びた。
これは収益優先の無責任融資で、倫理の欠如(モラルハザード)にあたる。
そのツケが回ってきたのが、サブプライムローン問題だった。
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